「知っていて、黙っていたのでしょう?死んだと思われていた淑鳳雲が名前を変えて、李将軍の妹であった李白蓮と家庭を作っていたこと。そして、時が来て、また、名前を変えて、黎祥を救うために辺境にやってきたこと」


父は優しく、強い人だった。


後宮では多くの書物を読んだけれど、その中で存在していた、先々帝の影的存在。


その戦いの主たる場は、華原。


継承権争いの中、土埃の舞う中で、まるで踊るように斬り進んでいく淑鳳雲の姿は、"華原の覇者”と称された。


彼の前に立てば、息をつく間もなく、首と胴がおさらばすると言われたほどの強さだったらしい。


「……貴方のお父様は、鳳雲様は、幼かった私にとっては英雄で、憧れだったのです」


だからこそ、皇族の歴史から姿を消した彼を追ったと、嵐雪さんは話す。


「…………言えましょうや」


「……」


「貴女を深く愛されて、手に入らぬ苦しみを背負うあの方に、それ以上の真実を―……」


誰もが言う。


ありがとう、って。


黎祥を、愛してくれてありがとうって。


柳皇太后も、嵐雪さんも。


みんな、みんな、言うんだ。


ひとえに、それは黎祥が大切だから。


嵐雪さんはただ、黎祥を傷つけたくなかった。


色んな思いは交差して、


良いことも悪いことも生み出して、


もう、こんがらがって、


何が何だか分からないけれど。


「……元気な子を、産みますね」


きっと、何十年も前から、人を愛す気持ちは変わらない。


ただ、人を愛した。


誰かを大切に、幸せにしたかった。


誰かを手に入れたかった。


ただ、愛を求めた結果、その大切な人を失ってしまうのは、悲しすぎるよ。