「ええ。構いません」
「良かった」
王となって、孤独となった黎祥の記憶の中には師匠がいる。
母君がいる。
愛し、大切にしてくれた人がいる。
『私に後宮で剣術を教えてくれた師の師……大師匠は、お前の父親だった。そして、私の叔父だ。淑鳳雲―深く、詫びる。私のせいで、お前は一人になった。お前の家族は離れ離れになってしまった。だから、私を恨め。愛さなくていい。私はお前を愛し続け、罪を償う。どうせ、地獄へと落ちる身だ。大師匠に直接、詫び入れることは叶わぬが……』
黎祥を縛り付けていたのは、大師匠の死。
自分を庇って、投獄された。
そして、処刑された。
そのことを気に病み続けきた黎祥は翠蓮の入宮に当たり、また、衝撃な事実を教えられたらしい。
それが、大師匠の本当の名前。
雲飛と慕っていた大師匠の本当の名前は、淑鳳雲。
先々帝の同母弟であり、翠蓮も聞いたことがある……柳皇太后の話していた、初恋の人だ。
つまり、柳皇太后の親友というのは翠蓮の母であり、初恋の人は翠蓮の父親だった。
翠蓮の父親は、皇族であるという事実から逃れるため、李姓を名乗った。
そして、李飛雲と名乗り続け、死んだのだ。
幼すぎて、わからないことは沢山あった。
ただ、父を失った悲嘆にくれた。
「嵐雪さん」
「?」
「貴方は知っていたんでしょう?」
翠蓮の質問の意図がわからないと言いたげな、嵐雪さんに微笑んで。