あの優しい雪麗様でさえ、殺す程に憎んだ人だ。


もしかしたら。


『栄妃様も……命令、されたのかな……』


翠蓮は小さく呟いて、紙面に指を這わせた。


人殺しを許容している訳では無い。


ただ、誰かを愛しているだけなのに、愛すだけのその代償に、命をかけられる彼女たちが羨ましいだけ。


『……真実はわからぬが』


黎祥は雪麗様の件に関しても、特に驚く節もなかった。


彼の中で、後宮にいる限り、罪を犯すのは当然だと思っているのだろう。


でも、そういうのは悲しいと思う。


ハッキリとしない、揺れてばかりの翠蓮の心に共鳴するように、蝋燭の火が揺れる。


静かに、優しく振り積もって、足が止まってしまう。


『何はともあれ、そう、真実がどうであれ、皇太子・淑成桂は死んだ。―……李桂鳳、お前はこの生き方でいいのだな?』


そう、黎祥に尋ねられて、桂鳳は笑みを深めた。


『―はい。皇恩に深謝いたします』


拝礼したその姿勢に迷いなどなく、


『李妃様、これからもよろしくお願いします』


その微笑みは、幸せそうで。


誰かを深く愛することは、難しい。


難しく、辛く、そして、甘い。


共にあゆむ未来を描く相手がいなくても、ただ、真っ直ぐに愛せる人がいるのは幸せなんだろうか?


桂鳳が去った部屋の中、翠蓮は黎祥を見ながら、考えた。