「……成桂(セイケイ)」


呼んだその名は、桂鳳のものでは無い。


「どうして、君は―……」


「豹兄さんに助けて貰って、宦官になったんですよ」


その言葉を聞いた時、翠蓮の脳裏に浮かんだのは豹の笑顔と、


『母上が私に託された、二人の子供……そのうちの一人、母上がお産みになった、私の同母弟の清宸です』


あの時の、言葉。


「どういう……?」


杏果が、尋ねる。


すると、桂鳳は申し訳なさそうに。


「翠蓮様、申し訳ありません」


と、深く拝礼して。


「私は……後宮の闇によって生み出された秘密子で、先帝の嫡子として、皇太子の位にいながら、本当は先々帝の皇子だったことを捨てた、李家の養子です」


―そう、告げた。


(この後宮の歴史の闇は、もっと、深い―……)


想像するだけで、怖い。


先帝の産み親だけでなく、第二皇子の産み親まで細工されていたこの後宮で、殺されたと思っていた皇子は本当は生きていた?


そして、挙句、先帝の子供じゃなかった、なんて―……。


「流雲殿下も、知らぬ話。時が来たら、話します」


(……一体、どれだけの数の後宮の問題が、自分を取り囲んでいるんだろう)


嵐雪さんたちの陰謀でもなく、自然に集まっている問題事。


それら全てを、嵐雪さんに説明したら、問題は解決するのだろうか。


後宮で死ぬ人はいなくなって、翠蓮は下町に帰れるのだろうか。


(でも、帰ったとしても、生活は大きく変わる―……)


もう二度と、上の人たちと関わらないなんて生活は出来ない。


そんな一生は送れない。


気にしないと言っても、自分の前世はこの国の建国者だ。


(逃げられる、気がしない)


これが、己の運命というやつか。


本当、厄介なものである。


この後、どれほどの問題事が出てくるだろう。


でも、きっと、もう驚いて、戸惑っている時間はない。