「これが、事件の最初の欠片だ。さあ、僕の母親は誰でしょう?」
彼は知っているのか。
でも、口にすることは出来ないと。
「……蘇貴太妃ではないことは、確かだな」
「蘇貴太妃でないとしたら……誰だというのよ、黎祥」
「僕の実の生母の身内が、今回の犯人のひとりだよ」
流雲殿下からの謎解きの答えに、顔を曇らせる。
蘇貴太妃のことは見た事がないから、人柄は掴めない。
けれど、流雲殿下が嫌っていることは、何となく分かった。
「儀式も、異民族討伐も、後宮内の争いも……片付けることはたくさんだよ。どうする?黎祥」
「……」
「あの二人の国王だって、長期間はこちらに居られないだろう。好きなことをして過ごしてもらっている間に、儀式に必要なものを揃えるって?どうやって?女王の遺体は、一体、どこに消えたと言うんだ?」
「……」
続け出の、流雲殿下の問いかけ。
答えられない黎祥は無言で、ただ、拳を握りしめて。
「……おいで。きっと、翠蓮のことだろうから」
「え……?」「どういうことだ、兄上」
「試せるものは、試せって話だよ。―ね?僕を生かしておいても、ろくなことは無かっただろう?」
「……」
黎祥の、静かなる葛藤。
それを感じながら、流雲殿下に手を引かれて着いた先。
それは、緑宸殿よりも少し奥にある、古びた神殿―旧神殿と呼ばれる所で。