「私には……あなたがわかりません」


翠蓮はそう言って、流雲を見て。


「どうして……背負わなくてもいいことを背負っているのですか。どうして、貴方は……」


後ろを見ると、弟であるらしい星は翠蓮の味方をするように、こちらを睨んでいて。


「……それ以上は、言っちゃダメ」


同じく、弟であるらしい豹は訳アリ顔で笑ってた。


「どうして……」


流雲は手を伸ばして、翠蓮の言葉を遮った。


当惑する翠蓮は、聡い子だ。


ひとつに気づけば、全ての紐を解こうとしてしまう。


流石、あの人の子供だ。


流雲が恋焦がれた、あの人の。


徐に翠蓮の髪に触れると、


「……黎祥に嫌われるよ。兄上」


と、豹に言われて。


「うるさいよ、豹」


流雲は苦笑を漏らす。


相変わらず、当惑気味の翠蓮に、流雲は微笑みを見せて。


「僕について来てくれるかい?見せたいものが……ううん、一緒に全貌を見に行こう。そうすれば、君ならどうすればいいのか分かるはずだ」


「…………殿下は、何かをしようとはなさらないのですか」


不思議そうな問いかけに、僕は読みかけの本を閉じる。


「うん。だって、僕は"死に損ない”の皇子だからね」


「死に損ない……?」


流雲は、覚えていない。


けれど、流雲の誕生を喜んでくれた人はいた。


それが、今の流雲の生きる理由であり、願いだ。


彼女が、来世では幸せに生きられることを願う日々が、


自分を産むことのない人生を歩むことを願うことだけが、


それだけが、流雲の日課。