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翠蓮が兄に縋って、宮の中に連れていかれるのを眺めていると、星が無言で衣の裾を引っ張ってきて。


「……どうした、星」


「どうして……」


「ん?」


「どうして、兄上は"嘘”をついたの?」


暗い顔をした、星。


「何を言っているんだ。嘘はついてないじゃないか。お前と私の母上は、ちゃんと皇太后……「そうじゃなくて!!」……」


大きな声を出す、星。


「僕、知っているんだよ。僕は翠蓮が幸せならって、見過ごしたよ。翠蓮のことは大好きだし、いっぱい助けて貰ったからね。この際、自分が皇子とか言われても、実感ないから、どうでもいい。でも、翠蓮が泣くのは嫌だよ!兄上!!」


「……星、いや……清宸」


「ダメだよ、兄上……。翠蓮を悲しませるのだけは、ダメだ。黎祥兄上と翠蓮がどんなに愛し合っていたとしても、身分の壁は壊せないんでしょ?なら……」


「…………そうだね。これは、私の自分勝手な考えだ。でも、私も悩んだんだよ。悩んで、暫く、観察して……気づいた。黎祥には、翠蓮が必要だと」


「……っっ」


星も気づいているのか、瞳を揺らす。


「分かるだろう?下町で見た、黎祥の幸せそうな笑顔。少なくとも、私は見た事なかったよ。彼が辺境に飛ばされるところ、見ていたけれどね」


……皇族の証である、赤い瞳。


それを持つものが、翠蓮と笑いあっていた時……豹が焦る傍ら、何も知らない星は言ったのだ。