―チリンッ、チリンッ、


若琳と話していると、どこからか聞こえてきた鈴の音。


ゆっくりと扉が開き、現れたのは紅蓮の衣装に身を包んだ李妃。


掛け布をしており、顔は見えない。


蝋燭が照らす部屋の中、


「―参れ」


黎祥の一言で、近づいてくる李妃。


「―……ご挨拶が遅くなり、申し訳ありません」


黎祥の政務の都合により、謁見の省かれた李妃は恭しく拝礼すると、


「李翠蓮と申します」


掛け布の奥で、柔らかく微笑んだ。


「……近くへ」


静かに、寄ってくる李妃―翠蓮の歩みに、迷いはなく。


帳を下ろして、掛け布を取ると、懐かしい笑顔がそこにあった。


「……翠蓮、お前は」


尋ねようと思った。


―どうして、後宮になんて来たのかと。


けれど、翠蓮が微笑んで、無言で黎祥の手を包むから。


「一緒に、戦うわ。だから、今はただ―……」


―何も言わないで、こうしていて。


掠れた声が、褥に沈む。


耳元で囁かれた言葉。


―睦言を囁くことは無かった。


ただ、その夜は二人して、褥に溺れて。


噎せ返る、花の匂い。


香の焚かれていないこの部屋で、


香っていたのは、翠蓮自身だった。