「……そうだな。生きていたことを、何も知らずに生きてきたことを、恨むほどには」


今日、黎祥は瑞鳳宮(ズイホウキュウ)を訪ねてきた。


瑞鳳宮の内院には、多くの季節柄の花々が咲き乱れている。


その瑞鳳宮はかつての皇帝―業波帝の愛妃、高理美(コウ リビ)が住んだ宮であり、愛妃が代々住んでいた恵鈴宮にも住んでいた形跡があることから、艶福家として名高く、子も多かった業波帝も、最後の最後で最愛の人を見つけたのだと、言われている。


瑞鳳宮は業波帝の遺向により、瑞鳳宮の中にあるものを理解できるもの以外、住んではいけないらしい。


黎祥も一度は目を通したけれど、生きてきた中で、見たことの無いものばかりで。


見たことの無い文字、言葉、図形、食譜(レシピ)……誰にも触れられることなく、その宮は時が止まっている。


業波帝というと、黎祥の三代前の皇帝だ。


黎祥の父、淑祥星の―先々帝の父だから。


齢十五にして、皇帝になった業波帝の御代の初めは、当時、業波帝の母であった皇太后に支配されていた。


母に命じられるまま、妃を娶っていた業波帝の子息は多く居る。


そして、その子息達が、後に政権争いで国を壊していった。


愚息のふりをして、血に塗れた皇帝の座を奪い取った先々帝。


その母こそが、高妃であった。


業波帝には程皇后がいたにも関わらず、過度な愛情を高妃に注いでおり、そのせいで、高妃は早世したのではないかと言われている。


業波帝が崩御した際、まだ、不惑(四十歳)の声を聞く前の年だった高妃。


その後、業波帝の後を追うように亡くなってしまった高妃。


彼女は果たして、皇帝に愛されて幸せだったのか。