「……後宮の中を片付けたら、今度は外ですね」


「忙しいの。皇帝は」


「でも、先帝の時代に攻めてこなかったことだけ、感謝します」


異民族の侵入は蒼波国などと協力して防いではいるが……問題はそれだけではないのだ。


少し先の国は、領土だけはあるこの国を狙って攻めてくる。


「そなたが先陣か?」


「そうですね……まぁ、まだ、少なくとも今は、攻めてこれませんよ。国境沿いには"爆弾”を残してきましたから」


「爆弾……何年くらい持つのじゃ?」


「さぁ?せいぜい……五年?」


「なんてものを残して……」


皇太后に苦笑され、黎祥は笑みを深めた。


「あそこはもとより、地形が入り組んでいますから。そこにちょっと手を加えて、簡単には抜け出せぬ迷路を作っただけのこと。それに簡単に嵌ってしまうのなら、その軍を引く者に将の才はない」


我が国に攻め入りたいのなら、そこから抜け出せ。


そうしたら、迎え撃ってやる。


「……あながち、そなたの獣説は嘘ではないな」


「獣?」


「目の前の敵を、遠慮なく食い破る……その姿は、一国の名将ですら予測のつかないほど残虐で、敵に回すべらかず」


それは、黎祥が王ではない時代に、近隣諸国で囁かれていた文書だった。


兄はそれを耳にして、黎祥を消そうと躍起になっていたのだと思うのだが……。