(今や、一人だもんね)


少し、しんみりしちゃいそうだよ。


兄様達が出かけているせいで、今、家の中は静かだからかな。昔のこと思い出して、胸に寂しさが満ちる。


モヤモヤとした感情を振り払うように、少し早めに足を進め、角を曲がると。


「―……っ」


思わず、足を止めた。


お父様が遺した、家族の祀ってあるその墓石の前に踞る人を見て、翠蓮は一瞬、呼吸を忘れたのだ。


外套を深く被った男性―その姿は、お忍び姿の黎祥そっくり。


長い黒髪の男性―……この国は黒髪黒目が普通なんだから、驚くほどのことじゃないのに。


雰囲気がね、似ている気がしたんだ。


ここにいるはずがないのに、似ている人を見て動揺するなんて……まだまだだな。


他の人にとって分からないであろうに、墓石に目を瞑り、熱心に唱えているのは……経?


絹糸のように天に昇る線香の煙を眺めて、ふと、地面に視線を落とすと。


「!?」


視界に映ったのは、意識のない……女の子?


「―どっ、どうしたの!?」


黙って見てられなくて、駆け寄る。


身体に触れようとした手を止めて、まず、呼吸を確認しようとすると、


「―生きてるよ」


と、墓前で手を合わせていた男性が言った。