「……陛下」


嵐雪に声をかけられて、我に返る。


差し出された手巾が、滲んで見えた。


何枚にも渡る、未来の話。


実現しなかった、話。


気がつけば、溢れていた涙。


「…………馬鹿じゃろ?」


手紙は丁寧に折りたたんで、皇太后に返す。


「良い。そなたが持っておれ。それが、二人の愛の証みたいなものじゃ……」


皇太后は、父に一番愛されていたわけじゃない。


でも、一番信頼されていた。


それを疑うつもりもないし、父は確かに母を深く愛していたことも、この手紙から察せる。


「―義母上」


「……」


「私は、貴方の息子でもありますよ」


皇太后のそばに行き、黎祥は彼女の足元に跪いた。


「貴女がいなければ、この国はもっとひどいことになっていた。貴女がいたから……この国は、まだ生きていられた」


彼女がいなければ、残る後宮は円皇后の独壇場だ。


それを防いだのは、彼女の力。


先帝ですらも愛そうとしたことの、何がいけないのか。