「幼いそなたが口にしようとした茶を、妾はたまたま飲んだ。何も知らなかったそなたの優しさが嬉しゅうて、妾も疑うことなく、気軽に口にしてしまった。そして、妾が血を吐いて倒れ、彩蝶が尋問される事態にまで陥った時……一番に彩蝶の罪を訴えたのは、湖烏姫じゃったよ」
人から聞く、自分が皇宮にいた時のこと。
―もう、何も覚えてないけれど。
「それで……湖烏姫を?」
追放したのか。
けれど、皇太后は首を横に振って。
「そのような予測で、人を追放することは出来ぬ。何より、湖烏姫が恐れていたのは、先々帝が皇太子の存在を―……勇成を、忘れてしまうことじゃ」
「……」
―誰にも、愛されない王だった。
孤独な王であった兄は、あの日、黎祥を恨みながら、消えていった。
この国の、龍神様にすら認められない王であっただろうと、誰もが語る。
この国を作った初代の彩苑の傍らには、仲間がいた。
強く、優しい味方が。
そんな彼女は、神すらも味方にいたと言われる。
神にすら愛され、祝福を受けていたと。
昔から存在する五行説と、それに基づく神の存在。
水金土火木―……そして、神と人間の子供だと言われる半神の存在。
それが本当かは知らないが、今なおも、彼らは……初代の人間の仲間が死した後も、この国を加護してくれていると考えられている。
明らかに、人間の都合のいい考えだけど……それでも、それを信じる心は、人の生きる希望となっていた。