このまま、一生関わらずに生きていく道もあるだろう。
ただ、一人の民として。
でも、今、あそこを見捨てたら……翠蓮は一生、自分を責めるから。
「翠蓮、これを」
顔を上げると、翠蓮の掌に乗せられるもの。
「……これは?」
それは、黎祥の瞳にそっくりな宝石の嵌め込まれた、指輪。
鎖がついて、首飾りのようになっていて……高そうではないけれど、安物でもなさそうな、そんな首飾り。
「……黎祥から、預かった」
「っ?」
祥基はそれを丁寧に持ち替えると、翠蓮の首にかけて。
「ん。似合うな」
表情を和らげ、
「持っていけ。後宮で、お前を守ってくれる」
と、言ってくれた。
「本当は、黎祥から貰ったことは内緒で、お前が嫁に行く時の嫁入り道具のひとつにしてくれと言われたんだがな」
取り出した手巾で、優しく翠蓮の濡れた頬を拭いて、
「そんなこと、出来るわけないよなぁ。お前、まだ、黎祥を愛しているんだから」
と、笑われる。
嫁入り道具、なんて、聞いてない。
「黎祥……?」
「……詳しいことは知らんが、母親の形見だと言っていたよ。本気で愛した、大切な人に送るために貰ったそうだ」
「っっ、」
「手は届かないよ。もう、夢の人だから。でもな、想うことは自由だろう?」
愛してた。
あなたといた、短い日々を。
忘れられない。
たとえ、どんなに苦しくても。