「立ち止まって、言い訳を付けては、相手を思って。お互いにそんなに遠慮していては、手に入るものも入りません、という意味です」


「……」


「順内閣大学士から話を聞いたのならお分かりの事実でしょうが、全ての黒幕を明かすため、私は貴方の寵愛を受けなければならなくなりました。貴方が誰かを召すことを決意なさってくだされば、こんなことをしなくても済むのに」


密通の容疑があった時、黎祥は栄貴妃と約束した。


いつか、栄貴妃をこの牢獄から放ってやる、と。


「翠蓮の策ですよ」


「……」


「好きになった女性なのではありませんの?」


栄貴妃は見た目によらず、果敢な女だった。


密通がわかった時、慧秀が自分の命で償おうとするのを見ながら、


『この人は、何も悪くありません。この人が処罰されるのなら、今、この場で、私の喉を短剣で貫いて御覧に入れましょう』


と、堂々と言い放ったものだ。


冷武帝にそう言えた栄貴妃は、約束をしたあとも、こんなふうに繕わず、はっきりとものを言ってくる。


「…………それでは、お前は翠蓮にここに縛られろというのか……。あの娘に、それはいくらなんでも……」


「陛下は翠蓮を甘くみすぎです」


「……?」


「一緒にいて、気づきませんでしたか?」


栄貴妃の問いに、黎祥は首をかしげた。


なんのことを言っているのか、さっぱりだった。