『こちらが、淑黎祥様だ。心して、仕えるように』
父に連れられ、彼を主とした幼き日から。
『嵐雪も不憫だね。こんな、価値のない皇子のお付きなんて。辺境は寒いし、異民族は攻めてくるし……僕のそばにいても、良い思いは出来ないよ。出世とかしたいのなら、僕を見限って、王都に行きな?』
年に見合わず、しっかりとした物言い。
あの人生に対して冷めた目をしていた、僅か、八歳の少年を支え続けてきて……暫く。
こんな目で、睨まれたのは初めてで。
自分の感情のままに怒っている黎祥を見れたことは、嵐雪にとってはとても嬉しいこと。
「何故、そんなことを……っ!」
初めて、人を愛された。
初めて、心から望まれた。
それを叶えたいと思うのは、やはり、勝手なんだろうか。
何も言わない、子供だった。
何も願わない、子供だった。
『あの子は、我慢強い。これから先、自分の気持ちを押し殺して……そして、生きていくことになるだろう。そして、もし……もし、全てがあの子の敵になったとしても、嵐雪、お前だけは黎祥の味方でいてやってくれないか?』
『貴女も、ともに―……』
嵐雪の言葉に、彼女は首を横に振った。
『私は、あの子を守ってあげらない。分かるんだ。自分の、体のことは』
彼女は、病を患っていた。
いつ儚くなるか、分からぬ身だった。