そんな黎祥の関心をあまり惹かぬ、黒宵国後宮には、四妃(シヒ)と呼ばれる四人の妃がいる。


貴妃(キヒ)、淑妃(シュクヒ)、徳妃(トクヒ)、賢妃(ケンヒ)がそれである。


その下に、九嬪(キュウヒン)と呼ばれる九人の妃がいる。


昭儀(ショウギ)、昭容(ショウヨウ)、昭華(ショウカ)、修儀(シュウギ)、修容(シュウヨウ)、修媛(シュウエン)、充儀(ジュウギ)、充容(ジュウヨウ)、充媛(ジュウエン)がそれであり、今現在、黎祥の後宮で一番高位と言われる栄貴妃は四妃の第一位、つまり、三千の宮女の中でも、四妃の中でも、上位である。


そんな栄貴妃が最上位の後宮において、先々帝、先帝の妃は昔の名を名乗ることは許されていない。


例にあげるならば、雄星の母であり、嵐雪の叔母である先々帝の妃であった彼女は現在、最後の位であった徳妃の位のまま、順徳太妃と呼ばれている。


先帝の存在があるので、先々帝は生きていれば、無上皇と呼ばれ、皇太后は太皇太后と呼ばれるはずだったのだが、先帝は黎祥が儚くし、皇后も殉死してしまった為、後宮を治めるには、この手しかなかったというわけだ。


先帝の懐妊中で後宮に留まっていた妃達もまた、先帝の命令によって強引に後宮に引きずり込まれたものが多く、後宮から開放されることを望む。


そして、後宮に入る前の恋人との約束を果たしたいと願うものもおり、中には恋人を先帝に殺されたから、冥婚―死んで、黄泉で婚姻を果たすこと―を、望む者が出てくる始末。