王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「殿下……。勿体ないお言葉、ありがとうございます」


オリヴィアは頭を下げるが、本当の意味でその言葉を受け入れられたわけではなかった。

本当に自分はそんなことができるのだろうかと、誰よりオリヴィアが信じられなかった。

ディアナもそのことには気がついていた。

けれど笑顔で「共に成し遂げましょうね」と声をかけるだけにとどめた。これ以上に言葉を掛けるのは、自分の役目ではないと思ったのだ。


一度部屋に戻ったオリヴィアは、ベッドに倒れ込んだ。

メリーアン王女の接待を務め切れたならば屋敷に帰れるのだと希望に溢れる一方で、この現実から逃げ出してしまいたい気持ちの方がずっと大きかったのだ。

その様子を見たメイはおろおろしながら「だ、大丈夫ですか!?」と声をかけるしかできなかった。

メイの声を聞いたオリヴィアは視線を向けて「ええ、大丈夫よ」とメイに微笑みかける。


「今日は、私にとって大切な日なの」

「大切な日、でございますか?」

「ええ。メイ、私は願いを叶えるわ。この手で、必ず叶えて見せる。

必ずアンスリナの地に戻って、領民のみんなと、そしてメイと暮らす日々を勝ち取って見せるわ」


実を言えば、あのメリーアン王女を喜ばせるようなもてなしができるのかという不安が絡みついて消えてはいなかった。

それでもやり遂げなければ自分の願いを叶えることはできない。

願いは口に出さなければ叶えられない。

自分の中の不安を払拭するように、自分自身に言い聞かせるように、オリヴィアはひとつひとつ言葉を紡いだ。


「……お嬢様は、やはり凄いお方です」


メイは目を閉じて手を胸に当てながらそう呟いた。


「お嬢様は、いつもお強い。どんなときでも迷わず、自分の願いを持っていらっしゃる。私には、到底できません」


その言葉は違うとオリヴィアは思った。

メイは何か勘違いをしているのだ。