王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「あのお姫様をどんな風にもてなすか、これは見物だな」


挑発するような目で見下ろすアーノルドにオリヴィアは腹が立って仕方が無い。

睨みつけるオリヴィアの気持ちを知りつつ、素知らぬ顔をしてアーノルドはオリヴィアに伝言を伝える。


「オリヴィアが快く引き受けてくれたこと、姉上にもすぐにお伝えしろ」

「ディアナ殿下ですか?」

「ああ。そして姉上から今後の指示は受けてくれ。俺はまた仕事に戻る」

「分かりました」


裾を持ち上げ一礼し踵を返すオリヴィアの背中に、アーノルドは呼びかけた。


「オリヴィア」


急に名前を呼ばれたオリヴィアは驚きながら振り返る。


「困ったときは俺を頼って良いからな」


オリヴィアにはその真意が分からなかった。

なぜそんなことを突然言うのか、それも嫌味ではなく本当に心配したような顔をしているのか、分かる術もなかった。

しかしオリヴィアにもプライドがある。どんなに困ったことがあろうともアーノルドだけには助けを求めたくはない。

いかに婚約者という関係であっても、オリヴィアの中にアーノルドを慕う気持ちなどこれっぽっちもないのだから。


「お気遣いありがとうございます」


淡々と温度のない声で言い捨てると、オリヴィアはまた踵を返す。

ディアナの元へと向かう後ろ姿をアーノルドがいつまでも見ていたことなど知る由もなかった。

ディアナに再び謁見したオリヴィアは美しい所作で頭を深く下げると、そのことを伝えた。

それを聞いたディアナは大層喜んで「まあ、そうなの!」と嬉しそうな顔をして腰掛けていた椅子から立ち上がった。


「良かったわ。オリヴィア嬢、あなたが居てくれると思うと私もとても心強いの」

「恐縮です」

「そんなに畏まらないで。メリーアン王女へのおもてなし、共に頑張りましょうね」


穏やかなディアナの微笑みに、オリヴィアは「はい」とまた深く頭を下げた。