王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

さも当然であるように表情を変えずきっぱりと言い切るアーノルドの考えが、オリヴィアにも少し伝わった。

つまりアーノルドの考えはこうだ。


「……では、王女のアーノルド様への想いを断ち切らせろと?」

「婚約者とはいえ、たかが伯爵令嬢のお前にそこまで望みはしない。お前には客人を喜ばせるような接待を頼んでいるだけだ」


最も憎いオリヴィアにもてなされるメリーアンを喜ばせろとアーノルドは再度言った。

けれどそれはただ普通にもてなせば良いと言うわけではない。それほど単純なことではない。

相当骨の折れる接待であることに違いはない。

またアーノルドへの好意を断ち切れとは明確に言われてはいないものの、アーノルドの言葉は、アーノルドとオリヴィアの婚約をメリーアンに認めさせろという意味と相違なかった。


「……随分と酷なことを仰るのですね。仮にも婚約者を相手に」


皮肉を込めるオリヴィアは恨めしそうにアーノルドを見つめる。けれどアーノルドは真剣な表情でオリヴィアを見つめ返した。


「お前は俺が選んだ。そのお前にこの程度のことができないとは思えない。そんなお前ではないだろう」


貶すでもなく、煽るでもなく、ただ事実を述べるように淡々と告げるアーノルドの言葉からはオリヴィアへの信頼が伝わってくる。

それに面食らったオリヴィアは一瞬何と返答すべきか悩み、言葉を漏らした。


「買いかぶりすぎです」


しかしアーノルドはそれを否定することなく鼻で笑った。


「できないなら構わない。ただしその時は約束は果たされないだけだ」


その言葉でオリヴィアは思い出した。この接待を何が何でもやり遂げなければならない理由を。


「何があっても約束は果たさせていただきます」


接待をやり遂げれば何でも一つ願いを叶えてもらえる。

オリヴィアが婚約を破棄し、領地アンスリナへ戻るためには、この約束を果たしてもらう他なかった。