王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

挑発的な言葉にオリヴィアはムッとしながらも尋ねる。


「それで、素敵なお客様とやらは何者ですか? その方のおもてなしをするのですから、教えて頂けますよね?」


半ば詰め寄るようにして尋ねるオリヴィアに、アーノルドは少し驚いたような表情をした。


「誰も、お前に教えなかったのか?」

「ええ。ですからこうして直接お聞きしているのです」

「……お前にも既に伝わっているものと思っていたのだがな。まあ、お前には教えたくないと思う気持ちは当然とも言えるのだが」


オリヴィアの問いかけに考えているのか、手を顎に当て独り言を呟く彼に、オリヴィアは「アーノルド様?」と声をかける。

するとアーノルドは顎に乗せていた手を離し、オリヴィアを見据える。そしてその名前を口にした。


「素敵なお客様は、西の国のメリーアン王女」

「王、女!?」


オリヴィアは絶句した。

アーノルドの言った言葉が信じられない、否、信じたくない。それほど素敵なお客様の正体は衝撃的だった。


「…西の国のメリーアン王女と言えば、かの有名なお方でいらっしゃいますよね」


いかに社交界に興味の無いオリヴィアとはいえ、西の国のメリーアン王女の噂は聞いたことがあった。

煌びやかで華やかなものを好み、贅沢な暮らしを望まれる姫君。その性格は激しく、ご機嫌を窺うのが難しい。そして我が国の王太子殿下を幼い時より心からお慕い申し上げていると。


「その通りだ」


アーノルドも当然噂を知っているのだろう。

特に否定することもなく、かといって気にする様子もなく淡々と頷いた。

それを見たオリヴィアは目を見開く。


「なぜですか! 噂通りなら、王女は私のことを殺したいほど憎んでいるに違いありません!」


アーノルドに好意を寄せているのならば一番憎まれるのは自分だとオリヴィアは思った。

王女とて自分にもてなされて心躍るはずもない。そうオリヴィアはアーノルドに告げるが、アーノルドの意見は変わらなかった。


「誰が何を思っていようが関係ない。

俺の婚約者はオリヴィア、お前だ」