王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

メイの言葉は全くもってその通りだ。

けれどオリヴィアはまたしてもその言葉に疑問を持った。


「ユアン様に聞き損ねてしまったけれど、王宮侍女はどうして私の部屋を訪ねるのかしら?」

「さあ、なぜでしょうね?」


メイも首を傾げる。

しかしこの疑問も王宮侍女が来たら解決すること。そう思い直して、オリヴィアとメイは部屋に戻り支度をした。

オリヴィアは城への長期滞在を考えてなどいなかった。当然、お出かけ着である豪華なドレスなどいくつも持ってきているはずもなく、アーノルドに嫌われたいオリヴィアは1着しか用意していなかった。

そんなオリヴィアの事情を知ってか否か、アーノルドはいくつもの色彩溢れる豪華なドレスをオリヴィアに贈った。

おかげでオリヴィアに宛てがわれた部屋のクローゼットにはアーノルドからの贈り物であるドレスでいっぱいになっている。

それを見る度にオリヴィアはアーノルドのものだと、婚約者だと言われているようで苦しく忌々しい気持ちでいたのだが、今回ばかりは助かった。

アーノルドはともかく、もしこれからディアナや他の貴族に会う機会があれば、前回と同じ服装をしているオリヴィアを見た人々はきっと不信感を抱くだろう。

それはアーノルドとオリヴィアの婚約の真実を疑われるということだけでない。オリヴィアの家、つまりダルトン伯爵家の威信について懐疑の目を向けられるということだ。

それはあってはならない。

もしダルトン伯爵家が軽んじられ、アンスリナの地が他の領主や西の国に攻め込まれるようなことがあれば、それはオリヴィアにとって不本意でしかなく、最も避けたいことの一つだ。

こればかりはアーノルドに感謝しなければならないと思いつつ、これではアーノルドと思うつぼではないかともオリヴィアは思ってしまう。

こうやってオリヴィアに好意的に接することで惚れさせようとそているのでないか、と。

しかし、そんな甘く簡単な手に引っかかるような自分ではないとオリヴィアは強く思った。