王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「あら、忙しいのね。久しぶりに貴方と会えたのだから、ゆっくり話ができるかと楽しみにしていたのよ?」


残念がるディアナに、アーノルドは苦笑した。ディアナは弟であるアーノルドのことをとても気にかけているらしい。


「申し訳ありません、姉上。しかし教えていただいたお客人へのおもてなしを臣下と早急に考えなければなりませんので」

「それもそうね。万全を期してお迎えしなければ」

「ええ、承知しております」


そう言うとアーノルドは席を立った。

それからディアナに向かってもう一度頭を下げ感謝を述べる。

顔を上げたアーノルドはオリヴィアを見つめていた。その目はディアナに向けられていたものとは異なり鋭い。

薔薇庭園を後にするため、アーノルドがオリヴィアの後ろを通った一瞬声が聞こえた。


「無駄なことは言うな」


それは隣にいるディアナには聞こえないほど小さく鋭い、アーノルドの言葉だった。

怒りや脅迫が一瞬に凝縮されたようなこの言葉にオリヴィアは体を固まらせた。

そしてアーノルドが姿を消すと、薔薇の園はオリヴィアとディアナだけになった。もちろん二人きりというわけでなく、給仕してくれる王宮侍女が傍に控えているものの、オリヴィアは緊張していた。

するとディアナは「そんなに緊張しないで」と柔らかく微笑んだ。


「私はあなたとずっとお話がしたかったの。アーノルドの婚約者と聞いて、ますますお話がしたくまったわ。いずれは私の義理の妹になるお方ですもの」


自分はいずれディアナの義理の妹になる。その言葉が重くオリヴィアにのし掛かる。足下から鎖で締め上げられるような感覚を感じながら、オリヴィアは「ありがとうございます」と頭を下げる。

本当はアーノルドとの婚約など早々に破談させて、一刻も早く領地に戻りたいというのに。

そんなオリヴィアの思惑を少しも知らないディアナは「あのアーノルドが婚約とはね」と目を細める。