王太子殿下の花嫁なんてお断りです！

「近々、素敵なお客様がこの城にいらっしゃるという話を聞いてね。その素敵なお客様を出迎えるのに、貴方一人では心許ないのではと心配でね。これは姉がそばにいてあげなくてはと思ったのよ」


「客人をもてなすのは簡単なことではないわ」と目を細めて勝ち誇った顔をするディアナ。

それを見たアーノルドはどんなにか不機嫌な顔をしているだろうと思ったが、意外にもアーノルドは不機嫌そうな顔をしてはいなかった。

ただ注意深く警戒するような視線を向けている。


「僕のそばにいてくださるということは、姉上は長期に渡って城に滞在なさるおつもりということですか？ それに、素敵なお客様とは一体誰のことです？ 僕はまだ客人がこの城を訪問するなどという話は一切聞いていないのですが」

「あら、だから私がこうして事前に教えてあげているのよ。素敵なお客様におもてなしするのは準備がいるでしょうから、私もできることは手伝おうと思ってね。頼りになる姉で良かったわね、アーノルド」

「姉上、ふざけないでください」

「アーノルドこそ、今はそんな不機嫌そうな顔をしないの。ここは議会などではなく、麗しき赤薔薇の園よ。それも素敵なご令嬢を招いてお茶会の真っ最中。ねえ、オリヴィア嬢もそう思うでしょう？」


突然話を振られたオリヴィアは驚きながらも、「え、ええ」と辛うじて相槌を打つ。

オリヴィアが言葉を少し詰まらせたことに少しも気に留めていないらしいディアナは微笑みながら紅茶を啜る。その仕草さえも美しくてオリヴィアは思わず目を奪われた。

しかしアーノルドはディアナの仕草の美しさなど気にとめる様子もなく、考え事をしているのか、とても深刻な表情をしていた。


「姉上、その素敵なお客様とやらがこの城に訪れることは間違いないのですね？」

「ええ、そうよ。今からでもお客様の来城に備えておくべきね」

「……そうですか。ご忠告ありがとうございます、姉上。僕はやらねばならないことがあります故、これで失礼させていただきます」