王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

アーノルドを糾弾するような台詞だが、ディアナの表情は酷く嬉しそうだった。


「彼女は、僕の婚約者です」


アーノルドはついにその言葉を告げた。


「婚約者? アーノルドの?」


ディアナは目を丸くして口元を両手で覆う。


「ええ、そうです。昨日見合いをし、そのような話にまとまりました」


アーノルドはにこやかに微笑む。それを見たオリヴィアは心から呆れたが、制裁を恐れて何も言えなくなった。

それと同時に、本当にもう逃げ場所がなくなってしまったという絶望がオリヴィアの心を満たしていく。


「まあ、そうなの! おめでとう、アーノルド。姉としてとても嬉しいわ」

「ありがとうございます、姉上」


心から祝福をしてくれるディアナの明るく喜ばしい笑顔をみて、アーノルドは心を痛めたりしないのだろうか、とオリヴィアは思った。

婚約者だなんて、それはオリヴィアを脅迫した上、アーノルドが勝手に言い出したことであり、オリヴィア自身は少しも認めていないというのに。


「それで、婚姻の時期はいつ頃になるのかしら?」

「それは未定です。決まり次第、姉上にお伝え致します」

「そうなのね。きっとよ、アーノルド」

「ええ、必ず」


それからアーノルドは紅茶を啜り呼吸を一つ置くと、「ところで、姉上」と話を切り出した。


「今回はなぜ帰城なさったのです? それも事前の連絡もなしに」

「あら、アーノルドはまた同じ話をさせるつもりなの? それとも私は理由もなく実家に戻れないのかしら」

「姉上が用事もなくこちらに戻られることなど無いでしょう。政略結婚という形だったとはいえ、姉上はあちらの国王と仲睦まじくしていらっしゃるというのに」

「それもそうね」


不機嫌そうに眉を顰めるアーノルドを見て、ディアナは心底楽しそうな顔をしている。あのアーノルドを不機嫌にさせても動じないとは、さすが姉であり王妃だとオリヴィアは思わずにはいられなかった。