王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「違うのか?」


オリヴィアは頷いた。

穏やかな陽は相変わらず降り注いで木漏れ日を作っているけれど、伯爵と話している間に少し傾いたようで、暖かな光が僅かに橙色がかったようにも感じられる。

ああ、もったいない。一日の間で一番よい時間を、あんな形で過ごしてしまったなんて。オリヴィアは表情を曇らせながら、レオに手紙を差し出した。


「父上はこれを渡しに帰ってきたの」

「これ…って、え、差出人は、王宮!?」

「そう、王宮。王太子殿下が結婚相手を探していて、その一人として私、オリヴィア・ダルトンが選ばれたらしいわ」


ひいては後日、見合いの席を設けるというものだった。

なぜ自分が王太子殿下の見合い相手などに選ばれるのだと疑問にも思うけれど、大方あの父親のせいだろうとは想像がついていた。

普通の貴族の子息ではオリヴィアは結婚に同意しない。しかし王太子殿下とのお見合いとなれば、いかにオリヴィアが行きたくないと思っていたとしても断ることはできない。

厄介な娘を嫁がせ、且つ王族との繋がりを持つことができればこのダルトン伯爵家にとってこれ以上にない栄誉だろう。

あの腹の黒い父親の考えそうなことだ、とオリヴィアはまた溜め息をこぼした。


「ふうん、でもいい話なんじゃねえの? 王太子サマって、将来は王サマになるんだろ? お見合いの話がうまくいったら、お嬢は王サマのお嫁さんになるんだろ? 玉の輿じゃん」


あっけらかんと笑うレオに、オリヴィアは頭を悩ませた。