王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「この子ったら、強くなって殿下みたいになりたいって言うのよ」

「へえ、そうなのか」


すると抱えられた男の子は拳を空に突き上げて真剣な表情をした。


「違うよ、早く強くなって殿下と一緒に戦えるようになりたいんだ! 僕は大人になったら騎士になるんだ!」

「それは楽しみだな、入団試験で待ってるぞ」

「うん、絶対だよ!」


その様子を見ていたオリヴィアはなんだか心が暖かくなった。

目の前の光景が、領地アンスリナでのそれと重なって見えるのだ。

平民と貴族王族が身分の差を超えて関わり合う暖かな光景が、遠く離れた城下町でも見ることができるとは思っていなかった。

あの老夫婦の会話がふっと蘇る。

彼らは「王太子殿下は人徳の高いお方」と言っていたけれど、そうなのかもしれないとオリヴィアは思った。

今、オリヴィアの目に映る景色のどこにも嘘や偽りなどはなかった。下心の見える行動もなかった。

ただただ暖かく穏やかな空気が流れている。


「また来てくださいよ」

「ああ、必ず」


店の家族と分かれて再び城に向かう中、オリヴィアはアーノルドに尋ねた。


「先程の方々とはお知り合いなのですか?」

「ああ、そうだな。たまにだが会いに行く」

「他の住民からも聞きました。アーノルド様が時々城を抜け出して会いに来てくださると。なぜです?」

「王族はこの国を治める存在だ。民のことを知らなければその務めを果たせないだろう」


さも当然だろうと言わんばかりの表情を浮かべるアーノルドは、全くもって王族らしくはなかった。


「だからって、わざわざ王城を抜け出すのですか? お付きの方も付けずに、危険を冒してまで」

「会わなければ、話さなければ、本当に民が思っていることは分からない。城下町とはいえ、王城は住居地からは遠いから、余計に分からなくなる。民のことが分からなくなってしまったら王族失格だ」


淡々と言ってのけるアーノルドの目は王城を見つめていた。