王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

アーノルドに連れられて路地裏から市場に出ると、ようやく活気づいた人々の声が聞こえてきた。

路地裏はあんなにも薄暗かったのに、本当に同じ町なのかと思ってしまうほど市場は明るかった。

男達に売り飛ばされていたら、こんなにも眩しい世界を見ることはできなかったかもしれない。そう思うと、オリヴィアはなんだか不思議な気持ちになる。

帽子を目深に被りアーノルドの背に隠れるようにしてオリヴィアが歩いていると、「あっ、殿下だ!」という声が飛んできた。

それは市場で店を営む夫婦だった。アーノルドを見つけた彼らはとても嬉しそうな顔をしている。


「よう」


アーノルドは驚いた表情を浮かべることもなく、とても自然に返事をしている。表情は嬉しそうだが、王城で令嬢達に向ける表の顔ともまた違う表情だった。


「こんなところに殿下が来るなんて珍しいこともあるもんだ」

「たまたま通りかかったもんでな。お婆さんは元気になられたのか?」

「ええ、殿下が呼んでくださった薬師の先生のおかげですっかり。本当にありがとうございました」

「それなら良かった。民には健康でいてもらわなければな」


二人がそんな話をしていると、店の中から子どもが走って出てきた。


「殿下だー!」

「うお!」


飛び出して来た男の子は嬉しそうにアーノルドの腰ににしがみつく。その衝撃に少しばかり驚いた表情を見せたアーノルドだったが、嫌な顔など少しも見せずに、寧ろ嬉しそうな顔をしてその子を抱き上げた。


「お、この前より重くなったんじゃないか?」

「そうだよ、背も伸びたんだ!」

「すぐ大きくなりそうだな。楽しみだ」


誇らしそうな表情をするその子に、アーノルドは慈愛に満ちた表情をして頭を撫でる。それを男の子の両親も心から嬉しそうに見ていた。