王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

まさかアーノルドがこんな風にオリヴィアを褒めてくれるなんて思ってもいなかったのだ。

メイのことを褒められるということは、オリヴィアが今まで自分の判断で身に着けてきたものを褒められるということ。自分の内面を見てもらえたということだ。

それは貴族の娘の誇りともいえる容姿を褒められることよりも、他のどんなことよりも嬉しいことだった。

だからこそオリヴィアはなんと返事をすればよいのか言葉が詰まってしまって、数秒遅れてから頭を下げた。


「……お褒めいただき、ありがたく存じます」


スカートの裾をもって地面を見つめるオリヴィアの目には涙が滲んだ。声が震えそうになるのを必死にこらえる。

アーノルドはそんなオリヴィアの頭を優しくなでた。アーノルドの手の温かさがオリヴィアに伝わっていく。

それに驚いたオリヴィアが顔を上げると、アーノルドが目を細めて柔らかく微笑んでいた。それは決して馬鹿にするようなものでもなく、王太子然とした表の顔でもなく、彼の本当の顔。そこには包み込むような優しさがあった。

アーノルドのそんな表情を初めて見たオリヴィアの心臓は、心拍するその速度を速める。痛いくらいに心拍するのをオリヴィアが感じているとアーノルドはこう言った。


「では、城に戻ろうか」

「え?」


目を見開き固まるオリヴィアの耳元で、アーノルドは意地悪く笑った。


「言っただろう、お前は領地に帰らないと。それを違えるつもりは毛頭ない。


俺から逃げられると思うなよ」



それは悪魔のような、この先も逃れられないと告げる残酷な声だった。