王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「姉上が? いつだ」

「今です」

「今!?」

目を見開いて驚愕の顔をするアーノルドに、ユアンは表情一つ変えず、「左様にございます」と淡々と頭を下げた。


「……それは些か急すぎるな。事前の連絡もなしか」

「ええ、いつものことです。それにもうお着きになると。ほら、鐘が鳴っておりますし、急ぎお出迎えに向かってください。ディアナ様は殿下のお顔を見るのをとても楽しみにしていらっしゃるようですから」

「まったく、いくつになっても自由なお方だ」とアーノルドは吐き出すように呟くと、マントを翻して門へと向かう。

どうすればよいのかと呆然と立ち尽くすオリヴィアに気付いたアーノルドは顔を向けるとこう告げた。


「お前も来い。ともに姉上を出迎えるぞ」

「は!?」

「驚いている暇はない」

「しっ、しかし!」

「いいから、早く! 姉上を待たせるわけにはいかないだろう!」

アーノルドに腕を掴まれる。そしてそのまま出迎えのために門へと向かった。


アーノルドと十ほど年の離れた姉・ディアナはそれは美しい王女だった。赤薔薇と言われるほどに愛らしく気品に満ちており、また民を愛し、民に愛されるような王女だった。

しかしながら彼女は十年前、オリヴィアの領地アンスリナと接する西の国の国王へと嫁いだ。それは強国である西の国と和平を結ぶための政略結婚だった。

しかしディアナは西の国へ嫁いでから、何度も故郷であるこの城に訪れているのだという。

それは西の国の国王に愛されていないからというわけではなく、ただ単にディアナが弟であるアーノルドのことを大変可愛がっているという理由からだった。


アーノルドに腕をひかれるまま速足で追いつこうとしていると、あっという間に玄関口へと到着してしまった。