王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

そしてちらりと視線を向けられる。

さあ、どうする。そう言わんばかりの挑発的なその瞳にオリヴィアは苛立って、一歩前に出ると息を吸い込み真っ直ぐマリア嬢の瞳を見据えた。


「お初にお目にかかります、マリア嬢。

ダルトン伯爵家オリヴィアにございます。


以後、お見知りおきを」


スカートの裾を持ち上げ頭を下げる。その所作は流れるように美しく凛としたもので、マリアは思わず目を奪われた。

その様子を見たアーノルドはくすりと笑い、ようやくオリヴィアを紹介した。


「彼女は僕の婚約者だよ」


その言葉で皆が凍り付いた。

オリヴィアは溜め息を吐き出し、アーノルドは至極楽しそうな顔をする。マリア嬢は大きな目を何度も瞬きさせ、少し時間が経ってからようやく口を開いた。


「…陛下、今、何と?」

「彼女は僕の婚約者だと言ったんだ、マリア嬢。彼女は一目見た時から花のように美しく、思わず目を奪われてしまって婚約を申し込んだんだ」


よくぬけぬけと戯れ言を言えるものだとオリヴィアはこっそり溜め息を吐き出した。

婚約を申し込んだ、否、オリヴィアを婚約者にした理由は、自分の裏の顔を口止めするためであり、ほとんど脅しであったというのに。


「そ、そんな……」


そんな裏取引を知る由もないマリア嬢は呆然として、次第に絶望の色を募らせていく。

彼女は自分こそが王太子妃に相応しいと心の底から信じていたようだった。

絶望と同時にオリヴィアに対する憎しみも募らせているようで、マリア嬢はキッとその眼光を鋭くオリヴィアを睨みつけた。


「マリア嬢、どうしたんだい?」


王太子のその言葉でマリア嬢はいつも通りの可愛らしい表情に戻った。あまりの豹変ぶりにオリヴィアは呆れよりも感心してしまったほどだ。