王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

アーノルドは人当たりの良い笑顔を作って朗らかに声をかける。

しかしマリア嬢は人形のような美しい目を見開いて固まっていた。それからオリヴィアに嫉妬の視線を送る。

オリヴィアが憎くてたまらないと、口で言わなくとも分かる。燃えるような妬みの目にオリヴィアは溜息を吐きだしたくなった。


ああ、帰りたい。帰りたくてたまらない。

今も目を少し閉じれば、ほら、そこには両地の美しい森に囲まれた湖の情景がありありと浮かんでくる。

現実逃避したい気持ちを抑えながら、この原因を作り出した者のことを思うと腹が立つ。


こうなることが分かっていたから、手など繋ぎたくなかったというのに。

けれどそう言えるはずもなく、せめてもとアーノルドをじとりと見つめると、彼は意味深に目を細める。どうやらオリヴィアの意図は分かったらしかった。

そして勝ち誇った笑みを浮かべている。せいぜい頑張れ、と言われているようで、腹が立つことこの上ない。

けれどその表情はオリヴィアにしか見せず、マリア嬢に向き直ったアーノルドはやはり人当たりのよい笑顔を浮かべているのだった。


「こんなところできみに会えるなんて嬉しいよ」


アーノルドがそんな言葉を口にすると幾分かマリア嬢の表情は柔らかくなるが、けれどオリヴィアに向ける視線の鋭さは変わらない。そしてアーノルドに問うた。


「陛下、そちらの女性は?」


彼女の視線の鋭さに気付いているのかいないのか、アーノルドはやはり朗らかに笑うのだ。