王太子殿下の花嫁なんてお断りです！

なんて強引な人だ。

オリヴィアは呆れたけれど、けれど彼の言う通りにしないという選択肢は取れなかった。

逆らえば領民と領地がどうなるか、分からない。

目を閉じると領地の美しい風景と、温かい笑顔の領民達が次々に浮かんでくる。

領主の娘として、あの地と人々を愛するものとして、絶対に守らなければならない。守りたい。そのために、ここでできる限りのことをするのだ。

そう言い聞かせて、アーノルドの後ろを追いかけた。


アーノルドの表の顔は、本当に完璧だ。

ただ城内の回廊を歩いているだけだというのに、その顔に微笑みを絶やさない。この笑顔の裏に、腹黒く冷酷な顔があることなどお首にも出さない。想像すらできないだろう。

王城の使用人達、貴族や役人達が彼に挨拶すれば、朗らかな笑みで気さくに話しかけている。

まさか自分が王太子殿下に話してもらえるとは、と言わんばかりの恍惚とした表情を浮かべる人々の顔を見て、彼は多くの人に好かれる人なんだとオリヴィアは思った。


「なんだ、さっきから」