王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

オリヴィアが尋ねると、アーノルドはその鋭い目をオリヴィアにまた向ける。生気のないその目は、やはり王太子殿下としてはあるまじきものだとオリヴィアは思うのだった。


「俺はまだお前を信用したわけじゃない。俺がここに留まるように命令したことや、俺のこの性格のことを伯爵に告げ口されるわけにはいかないからな」


ああ、思った通りどこまでも腹が黒い王太子だ。


「言われなくとも、理解しています。もし私が殿下のことを誰かに告げ口したら、領地が、領民がどんな目に遭うか」

「分かってるならいい」


それからアーノルドは扉の前まで来ると、振り返ってオリヴィアに微笑みかける。


「この後、少し時間があるんだ。一緒に王城内を散歩でもしようか」


表の顔での提案はひどく優しくて、きっと意中の人物から投げかけられたら胸の高鳴る甘いものだろう。けれどオリヴィアは眉を顰めた。この腹黒王太子からの提案だ、何か裏があるように思えて仕方がない。

疑い深いオリヴィアの様子にアーノルドは苦笑して、裏の顔で「別に、深い意味はない」と言った。


「ただ、今お前は俺の婚約者だ。城内でもそういう話で持ち切りになっている。二人でいるところを見せないと、話に説得力がなくなるからな」


「なぜ私が殿下の婚約者だなんて仰ったのです? 余計厄介なことになるではないですか」


「言ってくれるな、重々承知している。しかし見合い相手として訪れたお前が長く王城に滞在することになったんだ、これ以上に説得力のある説明は他にあるか?」