王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「ダルトン伯爵。僕はオリヴィア嬢との婚姻を望んでいるよ。こんなにも美しく気品に満ちた、王太子妃にふさわしい女性はきっと他にいない。先の見合いでもオリヴィア嬢にはそのように告げた。

僕達は晴れて婚約者となったよ」


「は!?」


オリヴィアとダルトン伯爵は揃って目を見開いた。

ありもしない事実が王太子の口から紡がれていく。

婚約者になどなった覚えもなく、誉め言葉は全て上辺だけの世辞に過ぎない。全てが嘘だ。

そう否定しようと思うも、オリヴィアは王太子にぎろりと睨みつけられ、先ほどの脅し文句も思い出し、悔しいが口を噤む他なかった。


「そ、そうでございますか。では……」


その言葉に伯爵は目を見開いて嬉しそうな顔をする。信じられないと言わんばかりの表情をしており、どうやら彼はアーノルドとオリヴィアの見合いがこんなにうまくいくとは予想だにしてはいなかったようだ。


「しかし、婚姻に関してはオリヴィア嬢の意志も尊重したい。会ったばかりで何も分からない男との婚姻など、彼女にとっては不安で仕方のないことだろう。

だから、しばらく期間を設けることにした。

しばらくこの王城で暮らして、僕のこともよく知った上でオリヴィア嬢に婚姻の是非を判断してもらおうと思っているのだが、よろしいかな?」


オリヴィアのために城に留まらせるなど、一体どの口が言うのだとオリヴィアは呆れた。この王太子は嘘しか言っていない。

しかしアーノルドの腹黒さを知らない伯爵は感銘を受けたと言わんばかりの表情をしている。


「殿下はそれでよろしいのですか? 殿下が望むならすぐにでも……」

「女性を無理に嫁がせるような手荒いことは、僕はあまりしたくないんだ」


その言葉に伯爵は黙ってしまった。それから「不束な娘ですがどうか宜しくお願いします」と頭を下げると応接間を後にした。

伯爵が居なくなった後の応接間では、アーノルドが目を細めて溜息を吐き出していた。


「殿下、どうしてこちらに?」