「……っ、申し訳ありません、殿下。無礼な態度を取りました」


王太子殿下のことを嫌ってはいるものの、これはやり過ぎだとオリヴィアは思った。

ダルトン伯爵家はもう終わりだということと、自分は処刑されるだろう未来が脳裏を過ぎる。

どんな処罰を自分は受けるのだろうか。

共に王宮に来たメイはどうなるのだろう。それに、嫌ってはいるけれども父上に合わす顔がない。母上も悲しませてしまう。

もう領地に戻れないかもしれない。レオや領民の笑顔を見ることももうないのかもしれない。

絶望の二文字が重くのしかかる中、オリヴィアは足の力が抜け、崩れるように床に座り込んだ。


「……確かにお前のような無礼な態度をとる令嬢は、他のどこにもいないだろうな」


その言葉にオリヴィアの視界は滲んでいく。もう自分は終わりだと宣告されているようなものだ。

それからオリヴィアははっと気付いた。

もしかしたら、アンスリナの領民にも罰が下されてしまうだろうか。

それはいけない。それは絶対に避けなければならない。

領民のことは何があっても守りたい。自分の罪によって領民まで巻き込まれるわけにはいかない。

せめて領民だけは助けてほしい。

そう伝えようと顔を上げると、アーノルドは跪いてオリヴィアと視線の高さを同じにし、目を細めて微笑んでいた。


「だが、気に入った」

「え……?」


目を見開いたオリヴィアが涙を溢すと、その長く美しい指でそれを拭う。

ひどく優しく穏やかな笑顔を向けるアーノルドは、オリヴィアの手をとってこう告げた。


「お前が欲しい、オリヴィア」


それは意地悪にも、冗談にも感じられなかった。アーノルドは真剣な瞳をしていたからだ。

もしかしたらこれは、本心なのかもしれない。オリヴィアの心は揺れる。



「殿、下……?」



「だから、覚悟しておけ。

お前は俺を好きになる。必ず」



どくんと心臓が大きく鼓動した。

宝石のような美しい瞳がまっすぐ見据えていて、まるで吸い込まれるようだった。

けれど王太子は次の瞬間ニヤリと口角をあげた。それは次第に妖艶で意地悪な笑みに変わっていく。