なんて悪趣味だろう。オリヴィアは嫌気がさす。

けれどアーノルドはオリヴィアの思いなどつゆ知らず、彼女の頬に手を添えた。見下したような薄く笑う顔でも、アーノルドは美しかった。

オリヴィアはそんなアーノルドから目を逸らそうとはしなかった。真っ直ぐ見つめていた。


「……私は、帰ります。絶対に、帰ってみせる」


願いを、言葉に。絶対に負けない。強い思いがオリヴィアの心に燃えている。


「……覚えておく、オリヴィア・ダルトン。今はそうだと」


それからアーノルドはオリヴィアに顔を近づける。何をするのかとオリヴィアが身構えていると、アーノルドはその薄い唇をオリヴィアに重ねた。

瞬間、オリヴィアの目は見開かれる。それから、両手でドンとアーノルドを突き放した。

不意打ちを食らったからか、アーノルドは反動でよろけるとうずくまる。



「なっ、なにをなさるのですか!」


オリヴィアは両手で自分を抱きしめながらアーノルドを睨みつける。

混乱からか、オリヴィアの瞳には涙が滲み、息は浅い。

アーノルドは腹部を押さえながら「痛いな」と眉間に皺を寄せる。まさか令嬢から拒まれるなど微塵も考えていなかったらしい。


「口吻程度でこのような反応をされるとはな。存外、力が強いんだな。さすが田舎育ちは違う」

「ふっ、巫山戯ないで!」

「巫山戯たのはお前だろう。王太子殿下相手に何をしたか分かっているのか?」


叫ぶオリヴィアに、アーノルドは冷静にそう告げた。その言葉で、オリヴィアは自分が何をしたのか完全に理解した。

そして自分はとんでもないことをしてしまったのだと気付いて、体が震えだした。顔は青ざめ、混乱が止まらない。