王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「私の望みはたったひとつ、領地での安寧な暮らしを続けたいだけなのです。それ以外の物は望みません」


富も名声もオリヴィアは興味がない。ただ、今まで通りの暮らしを続けたいだけだ。

震えに耐えながらそう告げたオリヴィアの言葉を聞いたアーノルドは「変わっている」と呟くと、それから口の端をあげて艶やかに微笑んだ。


「でも、お前を帰すわけにはいかないな。

お前は俺の秘密を知った。


こんなことして、王城から帰れると思うなよ」


美しい宝石のようだと思っていた目は怪しく光る。

その眼光の鋭さはそれだけで人をも殺せるのではないかと思うほどで、オリヴィアは気が付くと息を止めていた。


「大人しく俺の妃になれ。そうすればお前の領地も領民も、俺が守ろう」


それは契約に近いものだとオリヴィアは気付いた。

オリヴィアがこの先一生を王宮で暮らすことと引き替えに、領地はアーノルドの庇護下に置かれる。しかしそれは、オリヴィアが領民との生活を諦めなければならないということでもあった。

領民とともに安定した暮らしを続けたいオリヴィアは、アーノルドの提示した選択肢を選ぶことはどうしてもできない。

それと同時にこのような選択を迫るアーノルドが憎くて仕方がなかった。

睨みつけるとアーノルドは笑った。


「いいな、その目。意思のある目は好きだ」