王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

突然変わったアーノルドの口調と雰囲気に、オリヴィアは目を見開いた。戸惑いを隠せない。


「え、殿下?」

「なにを驚いた顔をしている? お前だって見抜いていたんだろう、あれが仮面だって」


先ほどまで浮かべていた朗らかな笑顔はどこにもない。

ただそこにあるのは鋭い目つきをした、無表情に近い、冷徹な顔だけだった。

驚きながらも、アーノルドの言う、あれ、というのはあの胡散臭い笑顔のことだとすぐに分かった。


…どこかで思っていた。王太子殿下の笑顔には裏があることを。

けれど、やはりあの笑顔からはとても想像がつかないその言動にオリヴィアは驚きを隠せなかった。


「どうして分かった?」


アーノルドの鋭い瞳に少し動揺してしまうが、ぐっと拳を握り締めて見つめ返す。


「…殿下のあの笑顔はとても見たいものではありません。見ていて苦しくなります」

「ふうん、そうか」


アーノルドは素っ気なく相槌をうつと、「で、お前は何がしたい?」と問うた。


「お前の望みは王太子との婚姻ではないのか? そのために俺の秘密を暴いたのではないのか? お前は社交界の百合の花と名高い令嬢だ。お前が望むならお前を王太子の妃にしてもいい」

「そんなこと望んでなどいないと先ほども申し上げましたでしょう!」

「では、どういうつもりだ。この国の第一王子で王太子である俺の秘密を見破って、弱みを握ったつもりか。貴様、まさか西の国に寝返った裏切り者か?」

「裏切り者!? とんでもございません!」


慌てて否定するも王太子の眼光の鋭さはより一層鋭くなる。恐怖で心の底から震えた。


「ならば答えろ。金か、宝石か、それとも名声。お前の望みは何だ?」