王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

オリヴィアは王太子殿下との婚約など微塵も望んでいない。


「どうして?」


心底不思議だと言わんばかりの表情を浮かべるアーノルドに、オリヴィアは思わず面食らってしまう。

今日会ったばかりの男性に突然結婚を申し込まれたのだ、驚き戸惑い断ることだって何も不思議ではないだろう。

しかしアーノルドが不思議がるのは当然のことだった。何と言おうと彼は王族、しかも王太子殿下。つまりは将来の国王陛下なのだ。

そんな人物に結婚を申し込まれて断る令嬢がいるなど考えもしないだろう。


それはそうだ。王太子からの結婚の申し出を断るなど、こんなことをしていいはずがない。


けれどオリヴィアには願いがある。望みがある。

こんなにも良い結婚の話を断ってまで叶えたい夢があるのだ。


「私は今暮らしている領地で暮らしていたいのです。結婚など、微塵も考えていません」

「……ダルトン伯爵の領地アンスリナ、確か王都からずっと離れた西の国との国境の地だったか。自然に囲まれた美しい土地だと聞いているよ」

「ええ、その通りですわ」


まさか王太子が片田舎の辺境の地にある自分の領地の場所を知っているとは思いもしなかったオリヴィアは少しどきりと心臓が鳴ったが、何事もなかったかのように装って答える。


「僕との結婚の話を断ってまで住みたい、そんなにいいところなんだ?」

「ええ、とても」

「そうなんだ」


アーノルドは目を細めた。

王太子は存外、話の分かる人かもしれない。オリヴィアの気持ちを無視して無理矢理に結婚の話を進めるようなことはしないのかもしれない。

そんな期待を抱くオリヴィアに、アーノルドは美しく微笑んだまま言うのだ。



「あーあ、面倒なことになった」