王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「……どうか忘れてください」

「いや、忘れられないな。誰も知らないオリヴィア嬢の貴重な一面を知れたんだ」


まるで少年みたいなことを言う。秘密を手に入れたと言わんばかりの悪戯な笑顔は、王太子のそれらしくはないと思った。

けれどひどく自然で屈託のないように見えた。これが本当の笑顔のように見えたのだ。


「決めたよ、オリヴィア嬢。


僕と結婚してくれない?」



何の脈絡もない飛躍したそれは、突然の申し出だった。

王宮の美しいテラスで、絹糸のように美しい髪を靡かせる彼が微笑むと、なにか絵画を見ているような気がする。夢でも見ているような感覚さえしてしまう。

ぽかん、とオリヴィアは開いた口が塞がらなかった。令嬢らしからぬ間抜けな表情だけれど、驚きのあまりそこまで気が回らなかった。

オリヴィアがそんな間抜けな顔をしていても、アーノルドは気にとめる様子を微塵も見せずに眉を下げて微笑む。


「ああ、ごめんね。突然すぎたかな。でも、僕は本気だよ。

君みたいに純粋な心を持った女性はいない。初めて会ったよ。オリヴィア嬢は容姿だけでなく心の中まで美しくて、すごく魅力的だ。ぜひ僕の隣にいてほしい」


「え? いやいや、え?」