王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

その声でオリヴィアは顔をあげた。はじかれたように輪郭から手を放すと、その衝撃で花は揺れる。

そしてその人物が誰だか分かってオリヴィアは目を見開き、顔を青ざめた。


「王太子、殿下」


アーノルド王太子殿下が、あの美しい微笑みを浮かべてそこにいた。

きっとこの国の誰もがこの微笑みに心奪われるだろう。しかしオリヴィアだけは例外だった。

花と会話、だなんて、柄にもなく感傷的で少女らしくなってしまっていたところを、よりにもよって王太子に見られたなんて。

しかも先ほどの呟きを聞かれてしまったのではないだろうか。

『殿下の笑顔、胡散臭い』

もしこれを聞かれていたとしたら、オリヴィアの人生は完全なる終わりを迎える。

体から血の気が引いていくのが分かった。鏡を見なくても自分の顔が今どれほど青いか想像するのは容易かった。


「こんにちは、オリヴィア嬢」

「こ、こんにちは」


ぎこちなく挨拶を返すオリヴィアに笑顔を向けながら、アーノルドはオリヴィアの向かいの椅子に腰かけた。ゆったりと流れていくような美しい所作に思わず目を奪われる。

アーノルドはその口元に美しい笑みを携えたまま、恐ろしい言葉を口にする。


「白百合か芍薬か、花のように凛とした貴女が、そんなにも少女らしいところを持っているなんて誰も思わないだろうね」