王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

この王宮で育てられた花なのだろうか。それとも王都のどこかで咲いていた花なのだろうか。はたまた遠い異国から連れてこられたのだろうか。

オリヴィアはその花びらの輪郭を優しくなぞる。


「__まだ、自分が居た場所で咲いていたかった?」


花に問うたところで答えもないのは分かっているのに、それでも問わずにはいられなかった。

オリヴィア自身も、そしてこの花もきっと、望んでこの場所に来たのではないのだ。元々自分が居た場所に居たくて、だけどそれは叶わなくて。


「__きっと、悲しかったわね」


憂いた笑みを向ける。それは花を慰めるようでもあったし、自分自身を抱きしめるようでもあった。

花びらの重なりに目を落としながら、この花が自分で地面に根を張って咲いていた頃に思いを馳せる。たとえ花開いていない蕾のままだとしても、明るい未来を待つその姿は凛としていて今よりきっともっと美しいだろう。

それでもこの花はここで咲いている。無理やり奪われても、連れ去られても、この花はこんなにも美しく凛と咲いているのだ。

オリヴィアは不思議でたまらなかった。どうしてそんな風に咲くことができるのか。

自分もそうなれるのか。

その時ふっと自分を花に例えた人を思い出した。


アーノルド王太子殿下はよく笑う人だ。人当たりの良い笑顔をきっと誰に対しても絶やすことはない。

きっと皆あの美しい笑顔を見て恍惚とした表情をうかべることだろう。

しかしオリヴィアにはそうは思えないのだ。


「__殿下の笑顔、胡散臭い」


そう、胡散臭いのだ。

心から笑っていないような、どこか影があるような、何とも言えないような怪しさが漂っている。

それがなぜなのかと考えていた時だった。


「お花とお話しとは、とてもかわいらしいね、オリヴィア嬢」