オリヴィアはそれから王宮侍女の案内でテラスに向かった。
冗談半分でメイも一緒に来るかと誘ったけれど、遠慮すると即答された。どうやら彼女は「王太子殿下」という言葉に慄いたらしい。顔を青くしていた彼女はどうやら、いまだに貴族というものに慣れないようだ。
シャンデリアがいくつも飾られた回廊を抜けると、そこには心地の良い風が吹き抜けるテラスがあった。
テラスからは王宮の広大な敷地がとてもよく見えた。手すりの方に近寄って見降ろすと、そこには建物の中に入る前にも見えていた大きな噴水と、丁寧に手入れされた庭木が広がっている。
そのはるか先には門と、その向こうに広がる城下町が微かに見えるような気がした。民家の集まりが辛うじて見える程度で、住民の姿はとても見えない。
「遠い…」
領地アンスリナにある屋敷にもテラスはあったけれど、そこからは民家はおろか領民達の姿もよく見えた。オリヴィアがテラスにいるのに気付いた領民が手を振ってくれたこともある。
領地では領民と領主の娘であるオリヴィアの距離はとても近かったのだ。
それなのに、ここからは何も見えない。王都の民がどんな暮らしをしているのか、どんな風な顔をしているのか、王族の人々は少しでも分かっているのだろうか。
もし万が一にも自分がここで暮らすことになったら、きっと寂しく思うだろうとオリヴィアは感じていた。この王宮は豪華絢爛な美しい世界だけど、外の世界があまりにも遠い。領地よりも世界が狭まっているようだ。
そんなことを考えてひとつ溜息を吐き出した。不毛なことを考えてしまった。自分はここに留まり続けるわけではないのだから、考えなくていいことなのに。
振り返ってテラスに置かれているテーブルに目を向けると、美しく咲き誇った薄桃色の薔薇の花がいくつか花瓶に生けられていた。
その花の色は王宮に飾られるのに相応しくとても美しいけれど、オリヴィアには悲しい色をしているようにも思えた。
「__あなたは、どこからやってきたの?」
冗談半分でメイも一緒に来るかと誘ったけれど、遠慮すると即答された。どうやら彼女は「王太子殿下」という言葉に慄いたらしい。顔を青くしていた彼女はどうやら、いまだに貴族というものに慣れないようだ。
シャンデリアがいくつも飾られた回廊を抜けると、そこには心地の良い風が吹き抜けるテラスがあった。
テラスからは王宮の広大な敷地がとてもよく見えた。手すりの方に近寄って見降ろすと、そこには建物の中に入る前にも見えていた大きな噴水と、丁寧に手入れされた庭木が広がっている。
そのはるか先には門と、その向こうに広がる城下町が微かに見えるような気がした。民家の集まりが辛うじて見える程度で、住民の姿はとても見えない。
「遠い…」
領地アンスリナにある屋敷にもテラスはあったけれど、そこからは民家はおろか領民達の姿もよく見えた。オリヴィアがテラスにいるのに気付いた領民が手を振ってくれたこともある。
領地では領民と領主の娘であるオリヴィアの距離はとても近かったのだ。
それなのに、ここからは何も見えない。王都の民がどんな暮らしをしているのか、どんな風な顔をしているのか、王族の人々は少しでも分かっているのだろうか。
もし万が一にも自分がここで暮らすことになったら、きっと寂しく思うだろうとオリヴィアは感じていた。この王宮は豪華絢爛な美しい世界だけど、外の世界があまりにも遠い。領地よりも世界が狭まっているようだ。
そんなことを考えてひとつ溜息を吐き出した。不毛なことを考えてしまった。自分はここに留まり続けるわけではないのだから、考えなくていいことなのに。
振り返ってテラスに置かれているテーブルに目を向けると、美しく咲き誇った薄桃色の薔薇の花がいくつか花瓶に生けられていた。
その花の色は王宮に飾られるのに相応しくとても美しいけれど、オリヴィアには悲しい色をしているようにも思えた。
「__あなたは、どこからやってきたの?」



