王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

部屋に戻ったオリヴィアはベッドの上で溜息を吐き続けていた。

そんなオリヴィアをメイはひどく心配していた。オリヴィアを励ますために自分に何かできないかとあれこれ試行錯誤をしては失敗し続けている。

それを見かねたオリヴィアはメイに声をかける。


「大丈夫よ、メイ。心配しなくても、私は落ち込んでなどいないから」


オリヴィアは王太子殿下を好んでいるわけではない。むしろ嫌われたいとすら望んでいるのだ。

いかに王太子殿下が女たらしであったとしても、オリヴィア以外の女性に甘く口説いていても、オリヴィアには微塵も関係ない。


「ただ驚いただけよ」


自分と見合いをしようと申し出た人物が、それもこの国の将来を担う王太子殿下が、あんなにも女たらしだったなんて。それも見合いの直前に別のご令嬢を口説いていたなんて。

帰り際、ユアンから「殿下は、ご令嬢方のお気持ちを害さないように接しておられるだけですから」と必死に説明されたけれど、それは彼がオリヴィアに気を遣っていただけだということもよく分かっていた。

王太子の正体は、ただの女たらしなのだ。

もとより婚約など破棄したいと思っていたけれど、王太子殿下があんなお方だったと知った今、もう一刻も早く領地に戻りたい。


また一つオリヴィアが溜息を吐き出したときだった。

扉をこんこんと叩く音が響いた。

オリヴィアが返事をすると、王宮侍女が「失礼致します」と入ってきた。


「殿下より、お言葉をお預かりしております。

テラスでお茶をご一緒しませんか、と」


オリヴィアは少し目を見開いた。

これはつまり見合いをしようということだ。

正直なところアーノルドとは会いもしたくないと思っていたところだったが、しかしこれはいい機会だ。丁度、一刻も早く領地に戻りたいと思っていたのだ。

この機を利用して、嫌われてやる。

そんなことを心の中で思って、オリヴィアはそれをおくびにも見せない完璧な美しい微笑みをして見せる。



「ええ、よろこんでご一緒させていただきますとお伝えください」