王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

オリヴィアは目を疑った。

しかしオリヴィアの隣を通り抜けていったご令嬢は美しい栗色の髪を靡かせて明るい声で笑っている。

オリヴィアに向けられたと思ったアーノルドの笑顔も手も、このご令嬢に向けられたものだとすぐに気づいた。


「ごきげんよう、殿下」

「やあ、マリア嬢。今日もあなたは美しいね」

「やだ、殿下ったら。お上手ですこと」

「本心を言ったまでさ。こんなにも美しい栗色の髪を持つ女性はそういないだろう」


歯に浮くような甘い台詞を惜しげもなくアーノルドは次々に発していく。

呆気にとられているオリヴィアの存在など少しも気付いていないようだ。


栗色の髪の彼女はこの世で最も幸せだと言わんばかりの表情を浮かべて、アーノルドに抱き着いている。

アーノルドは少し驚いたようで動きが少し遅れたけれど彼女の背中に手を回した。そしてその宝石のような輝きを持つ目を細めて、愛しそうに微笑む。

まるで恋人同士のような甘い雰囲気の二人を目の当たりにしたオリヴィアは戸惑いを隠せない。