王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

なんと美しい微笑みだろう。アーノルドの周りだけ彩度も明度も高くなっているような感覚さえしてくる。

その穏やかな微笑みに幾ばくか胸をときめかせながらも、オリヴィアは思考を巡らせた。


自分などが王太子殿下に手を振り返すなど、あってもよいことなのだろうか。

自分がここにいるのは王太子殿下に嫌われるためだ。

それならば手など振り返すことはしてはいけないが、手を振り返さなければ逆に無礼だと思われて必要以上に嫌われてしまうのではないだろうか。

手を振り返すことくらい、しても構わないことなのかもしれない。


心を決めたオリヴィアは手を振ろうとその手をわずかに上げた。


その時だった。


オリヴィアの隣を、知らないご令嬢が通り抜けていった。


「え?」