王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

その真っ直ぐな目で、自分の望む未来を見据えて。


「私は、私の望む未来を掴むためにここに来たのです」


王太子に嫌われて領地へ戻る、そのために今ここにいる。

緊張など、している場合ではない。

真っ直ぐな、けれど晴れやかな顔をしているオリヴィアを見て、ユアンは他の令嬢とは違うと思ったらしかった。何が違うのか分からなくとも、確かに違うとその瞳を見て確信した。


「オリヴィア様なら、きっとあの方を……」

「え?」


ユアンの呟きを聞き取れず聞き返すも、ユアンは目を閉じて微笑み首を横に振る。

それから「先を急ぎましょう」と言うだけだった。


「あちらが中庭にございます」


ユアンが示したのは、回廊に面した美しい庭だった。

庭は一面芝生に覆われていて、中央に噴水と、その四方には木々が木漏れ日を作っている。風に揺れる木漏れ日の下には花壇があり、色とりどりの季節の花が植えられていた。

その近くにベンチがあるのを見つけて、そこで過ごす午後のひと時はどれほど優雅だろうとオリヴィアは想像した。メイもそう思ったのか、うっとりとした表情を浮かべている。


「美しい庭ですね」

「ええ、王太子殿下もこの庭をとても好んでおられて、よく姿をお見掛けし__」


そこでユアンの言葉は途切れた。そして一点を見つめたまま表情がピシリと固まった。

どうしたのかと思ってユアンの視線の先を辿ると、オリヴィアも目を見開いた。

陽の光を浴びた緑が優しく輝くその中に、絹糸のような蜂蜜色の髪を持つ男性がいた。プラチナブロンドの彼がいる景色は、まるで絵にかいたような、目を奪われるほどに美しい。

そう、先ほどまで話題に出ていた王太子殿下がそこにいた。

しかしユアンもオリヴィアも驚いたのはそのことではなかった。

アーノルドはオリヴィアの方を見て微笑み、手を振っているのだ。