王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

オリヴィアが王太子の見合い相手として王宮に滞在する話は王宮中の知るところとなっているらしい。

部屋に戻ろうとして迷子になったと伝えると、その役人は「案内します」と笑顔で引き受けてくれた。


「ありがとうございます。お仕事中に申し訳ありません」

「いえいえ、構いませんよ」


星の色をした長い銀髪を後ろで一つに纏めた彼はユアンというらしい。王太子より少し年上にも見えるが、彼の朗らかな笑みは、誰からも愛されるだろうとオリヴィアは思った。


「それに他ならぬオリヴィア様のことです。ぜひ、ご案内させてください」


どういう意味だろうと思っていると、彼は王太子殿下の側近を務めているのだと話してくれた。今は王太子殿下に頼まれた資料を探していたところだったようで、丁度ここを通りかかったらしい。

それを聞いたオリヴィアとメイは思わず顔を見合わせた。まさか彼が王太子殿下側近という高名な立場にあるお方だとは思いもしなかったのだ。

無礼な態度を取ったと慌てて謝る二人に、ユアンは目尻に皺をつくるようにくしゃりと笑って「どうかお気になさらず」と言うのだが、オリヴィアは気にせずにはいられなかった。


「せっかくです。お時間に余裕がおありなら、お部屋へ戻りながら王宮の中を少しご案内させてください」


その言葉に甘えたオリヴィア達にユアンは王宮の設備を詳しく説明してくれた。滞在しているオリヴィア達が不自由なく過ごせるよう、気を遣ってくれているらしかった。


「__緊張なさっていますか?」


あちこちを見て回りながら、ユアンから穏やかな声でそう問われた。きっとこの後のお見合いのことを聞いているのだろうことはオリヴィアにもすぐに分かった。

もしこの見合いがうまくいって、王太子妃になればきっとこの国で最も輝かしい人生を約束されるだろう。しかし失敗すれば、その夢はもう二度と叶わない。そんな人生が決まる瞬間がもうすぐ訪れるのだ。

それをユアンは言っているのだろうけど、オリヴィアは違った。


「いいえ」


オリヴィアは凛とした声ではっきりと告げた。