王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「ええ、大丈夫よ。心配はいらないわ。

王太子殿下のお気に召さなかったなら、それは仕方のないこと。父上もそう思われるでしょう。

それに王太子殿下の見合い相手として王宮に呼ばれたことだけでも、父上にとっては高名なことなのよ。例え王太子殿下に見初められなくとも、もっともっと結婚の話が来る、ってね」


イキイキした顔の父親を思い浮かべてオリヴィアは溜息を吐き出したくなった。

彼の思い通りに事が動くことほど、不快なことはそうないだろう。まったく嫌になる。


「メイ。私は諦めたくないわ。私はメイと、そして領民と一緒にずっと暮らしていたいの」


レオは言ってくれた。領民のみんながオリヴィアのことが好きだと。オリヴィアがほかの土地に嫁いでしまうのが寂しいと。

家族よりも温かい言葉をくれる人がどこにいるだろう。オリヴィアにとっての家族とは血のつながりではなく、領民の皆だという気持ちが強かった。


「だから私はここで立ち止まったりしないわ」


オリヴィアは立ち上がって、胸に抱えていた手帳をトランクの中にしまった。


「メイ、見合いまでまだ時間があるの。一緒に王宮を散歩でもしましょうか」


笑顔を見せてもメイは浮かない顔をしたままだ。きっとオリヴィアの未来を心配しているのだろうとその横顔を見つめながらオリヴィアはそう思った。

それから俯きがちなメイの手を取る。

驚いたその顔にオリヴィアは笑いかけた。


「行きましょう?」


とはいえ、どこをどう歩いて良いのかもオリヴィアには分からない。

おまけに王宮の中はどこにでも同じようなシャンデリアが飾られていて、同じ壁紙の壁がどこまでも続いている。どの角をどの方向に曲がってみても、さっきも見たような風景ばかりで、さっそくオリヴィア達は迷子になってしまっていた。

探索を切り上げて部屋に戻るにしても、ここがどこだか分からず、どの角を曲がって来たのかさえも分からない。途方にくれるオリヴィア達に、近くを通りかかった役人が声をかけた。



「失礼ですが、オリヴィア様にいらっしゃいますか?」